書籍『フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?』
これはもはや名著といっていいでしょう。まるで旅行中にブラブラと街歩きするようなリラックスした雰囲気で、目に入る看板や掲示物について思いを巡らすその語り口の心地よさ。そして、優しい語り口が教えてくれる深いフォントについての見識。読み終わるのが残念に思うほど、幸福感を感じるデザイン書籍です。副題はちょっと俗っぽい(このシリーズはなぜか副題に毎回煽りが入っています(笑))ですが、フォントデザインというちょっとマニアックで敷居の高い内容について、あくまで素朴な気持ちと素直な疑問から関心を広げていくという方向性を表現しているのかもしれません。また、本文のデザイン(cozfish:祖父江慎、鯉沼惠一)もとてもユニーク。一見、まるで素人が配置したかのような図版のレイアウトとアキのある文字組が、なんだかクセになるというか、実はレベルの高いデザインであることが、読み進めていくと感じられます。文字のデザインという、人間が古くから情熱を注いで取り組んできた活動の、その人を夢中にさせる異常な魅力と豊かな歴史を実感できる良書です。何より、世界的なフォントデザイナーである著者が、歴史や系譜の重要視されるフォントデザインの業界にあって、既成の概念に凝り固まることなくとても自由にフォントや文字について、思いを巡らしていく様子が風通しが良くて気持ちがいい。プロフェッショナルだからこそ漂う余裕というか確かな審美眼。デザインやフォントに興味が薄い人でも、旅行や街歩きが好きならきっと満足できると思いますし、すべての好奇心旺盛な読者にとってワクワクするような充実感のある稀有な本だと思います。