書籍『広告コピーの教科書 11人のプロフェッショナルの仕事から伝える』
企画自体は良くある「広告/コピーライター業界のスター達のインタビュー集」です。でもこれが、平凡なインタビュー集と少し印象が違うのは、おそらくこれから広告業界・コピーライターを目指す若者向けに作られた「仕事の実態を丁寧に教える本」であることと、ジャーナリスティックなデザイン・広告関連書籍を手掛けることで定評がある誠文堂新光社から出版されていることでしょうか。内輪受け、業界話、武勇伝的な内容ではなく、比較的冷静に“いまあるいはこれからのコミュニケーションに何が大事か”ということを、まさにきら星のごときタレント達が真摯に語ります。
この本を読んであらためて感じたのは、広告/コピーライター業界というのは、まさにその第一線で活躍する人たち自らが、業界がどうあるべきか、これからの広告とは、コピーとは、ということを熱心に検討し語り合ってきたからこそ、素晴らしい人材や価値基準のモノサシが蓄積されているのだ、ということ。ここまで、自らの在り方やこれからの方向性を能動的に突き詰めて常時考え抜いている業界というのは他になかなかないのではないでしょうか。
“教科書”と名は付いていますが、いわゆるハウツー的な教本ではありません。しかし本書で語られる、広告/コピーとは“それに持ちやすい取っ手を付ける役割”を目指すべきであるという言葉は、テクニックなどのスキルや直感的でクリエイティブな世界への憧れより以前に、しっかりと認識しておくべきことでしょう。ちなみにコピーとは“取っ手を付ける”ことである、という台詞は本書でインタビューを受けているうち二人の方がおっしゃっていて、その第一線で活躍する人たちの“共通認識の強さ”も先に述べたような、広告/コピー業界が切磋琢磨、あるいは時に侃々諤々で培ってきた比類ない資産なのだと感じました。